2024年から日本国内の物価が上昇しており、固定資産税・修繕費・電気代などのコストが上昇していることを背景として、不動産オーナー又は不動産管理会社が賃料の値上げを入居者に通知するケースがあります。
入居者の方からすれば、突然一方的に上げられるの?という切ない気持ちと共に、不満を抱かれる方もいるかもしれません。
また、2025年1月頃、板橋駅近くのマンションで家賃を72,500円から190,000円に値上げする通知が配布された事案が話題を集めています。
今回は入居者の立場で、家賃の増額を提示された場合に対抗する手段はあるのか考察していきたいと思います。また、最後には板橋区の2.6倍にも及ぶ家賃値上げの背景や恐ろしいオーナー側の対応を取り上げたいと思います。
1. 家賃の値上げを通知する手紙を受けた場合の対応
家賃値上げの通知は、賃貸借契約の更新時に、更新料の支払い通知と共に送られてくることが一般的ですが、最近は契約の途中でも送られてくるケースを耳にします。
この通知を受けて家賃値上げに同意されるのであれば、値上げされた家賃をそのまま従前どおり支払うことになります。
一方、家賃値上げに同意できない場合には「既存の賃料・共益費を相当と認めるため、今後も同額を支払う」意向をオーナー・管理会社に伝えます。方法は簡易書留郵便を推奨します。手紙は以下の構成で作成します。
【手紙に記載すること】
・日頃の物件管理に対するお礼
・現行家賃●●円、共益費●●円から新賃料●●円、新共益費●●円に改定したい旨の意向を受け取ったという事実
・入居者としては、現行家賃を相当と考えているため、借地借家法第32条第2項※に従い、今後も同額を支払いたい旨の意向
※ 借地借家法第32条第2項
建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
2. 現行の家賃を受け取らない旨の連絡が来たら
現行の家賃を管理会社が受け取れば、継続して同額の賃料を払い続けましょう。一方、管理会社から値上げした家賃でないと受け取れない旨の連絡を受けたり、家賃の値上げに応じないのであれば退去して欲しい旨の連絡を受けたりするかもしれません。
そのような場合、市区町村を管轄する「供託所(法務局)」を検索し、そちらに供託する旨を簡易書留郵便で通知のうえ、供託所に供託します。これは、民法第494条第1項第1号※に規定があり、供託することで賃料支払い債務を履行したことになるからです。
※民法第494条 弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。
一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
二 債権者が弁済を受領することができないとき。
3. 入居者が現行家賃を支払い続けた場合のオーナー側の対応
入居者が現行の家賃しか支払わない旨を管理会社に通知した場合、それでも家賃の値上げをしたい時は、オーナー側の提起により家賃として値上げすることが妥当なのか、妥当でないのかを裁判所で決めることになります(調停または訴訟等)。この時、家賃の値上げの妥当性を説明するのはオーナー側になりますが、その妥当性を説明するには相当な労力と費用がかかります。このような不動産賃貸借を継続する場合の賃料を求める鑑定評価を「継続家賃の鑑定評価」と言いますが、作業工程が多く、手間がかかるので安価な報酬で受ける不動産鑑定士はあまり多くないと思います。つまり、オーナー側は自分で相当な労力をかけて資料を作成するか、安くない報酬を払って不動産鑑定士に依頼するかという選択が必要になるのです。
4. 入居者として期待する将来(家賃の値上げなし)とリスクについて
以上、入居者が現行家賃を支払い続け又は供託する場合、オーナー側はほとんどの場合諦めます。この場合は入居者の勝利といえるかと思います。しかし、中には家賃増額調停・訴訟を提起するオーナーもおり、もし入居者が調停で家賃の値上げに一部合意し、又は訴訟に敗訴するということになれば、これまで払ってきた現行家賃と値上げ家賃の差額を払うことになり、さらに上記借地借家法第32条第2項に記載のとおり、年1割の利息も支払わねばなりません。
5. 家賃の値上げに納得できない場合の対応
私が入居者から「家賃の値上げに納得できない場合はどうすればよいか」と相談された場合、まずは上記で説明した手紙を管理会社に送ってみることを提案します。そして、調停・訴訟を提起されたら、その瞬間に、年1割の利息を払うことに抵抗があるなら諦めて値上げ家賃に応じるか、それとも法定で戦うかという方向性を決めることをご案内します。
6. 付録 板橋駅近くのマンションの急激な値上げの背景とオーナー側の対応
2025年1月頃、板橋駅近くのマンションで家賃を72,500円から190,000円に値上げする通知が配布されましたが、そのマンションオーナーは中国籍の企業で、代表者住所も中国でした。このオーナーは無届で中国を中心とする外国人向けの民泊を運営していたようで、マンション住民を退去させ、民泊運営できる部屋を増やそうとしていたようです。もちろん上記で説明した方法により家賃の値上げを拒んだ入居者もいたのですが、恐ろしいことに、エレベーターの稼働を止めたのです(このマンションは7階建)。日本では住宅宿泊事業法により、無届(無届出・無許可)の民泊は募集サイトに掲載できない取り決めが明確になっているのですが、このオーナー日本の国外で募集していたため、住宅宿泊事業法を遵守せずに民泊運営を行っていたようです。エレベーターの停止は当然のことながら許容されるものではなく、民法上の「不法行為(第709条)」や賃貸借義務違反(第601条)に抵触するのですが、その立証は容易ではありません。このような強引な立退きは昭和の頃の地上げ屋を連想しますが、この一連の流れは増えないように、国会・警察・行政で厳正に対処頂けることを祈念しています。
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