相続対策(租税回避行為)として税務署から相続評価を否認されるケース

 相続対策として都心のタワーマンションや一棟マンション、または区分オフィスや一棟オフィスを購入すれば、相続税の節税対策になるということを聞いたことがある方も多いと思います。ところが、令和4年に当該相続対策を行った相続税の申告が国税によって否認され、控訴・上告の結果、最高裁判所で国税の勝訴となる判決がありました。
 今回は、本件では何が問題となり、どうすれば良かったのかを考察したいと思います。

1.相続対策が否認されることとなったケースの概要

 北海道札幌市に住む94歳の個人Aは、平成20年に三菱UFJ信託銀行に相続・事業承継対策について相談し、63,000万円の借入をして平成21年に都内の一棟マンションを83,700万円で取得しました。さらにA氏は三菱UFJ信託銀行から37,800万円の借入を行い、平成21年に川崎市の一棟マンションを55,000万円で取得しました。その後、平成24年にA氏が死去し、A氏の相続人等は平成25年に「川崎不動産」を第三者に51,500万円で売却し、同月11日に相続税の申告をしました。A氏の相続人等は、時価より低い評価および特例を適用し、申告していると思われます。
(詳しくは空家・遊休地の相続対策 | 西武不動産鑑定 株式会社で相続評価の体系と小規模宅地の特例を説明しています。本件でいえば、購入価額が約8億円のところ、財産評価基本通達による相続評価では3.7億円と、73%削減した評価額で申告し、借入を考慮した結果、相続税額は0と申告しています)
 そして相続税の納税も終わり、相続人等が安心したころ、税務署から税務調査が入ります。
(税務調査が入る経緯は親族間売買における「みなし贈与」のリスク | 西武不動産鑑定 株式会社にてご説明しています)。
 相続人等は税務署から、一棟マンションについては、財産評価基本通達などを根拠とする、所謂相続税評価ではなく「不動産鑑定士による不動産鑑定評価」によって評価し相続税を計算すべきという趣旨の指摘を受けます。相続人等は国が作成した「財産評価基本通達」に従って相続税の計算をしたのに認めないというのは不当であるとして訴訟になりましたが、最高裁は国側の勝訴と判決しています。そして不動産を時価評価した場合の高額な相続税に加え、過少申告加算税(年10%)などが加わり、悲惨な追徴課税額になっているものと思われます。なお、国税は調査の過程で「国税徴収法に基づく質問検査権」を行使し、三菱UFJ銀行に調査立ち入りし、相続税削減を目的とする内容を記載した稟議書を証跡として押さえています。

2.相続対策が否認されることとなった論拠

 相続人等は財産評価基本通達に従って相続税を算定したのにも関わらず、税務署がそれを否認した論拠は、「財産評価基本通達6項(通称「総則6項」)」になります。
その通達の内容は「財産評価基本通達に基づいて相続税を計算することが著しく不適当な場合は、別の評価方法により相続税を計算しなければならない」という、いってみれば、税務署が主観で「財産評価基本通達の評価が不適当だから時価評価せよ」と指示出来てしまう記載内容となっています。つまり、本件は、税務署に否認されそうなことをやったからダメと言われたのです。

3.相続対策(租税回避行為)として否認されることになったポイント(当社考察)

  当社では、本件で税務調査が否認されることになったポイントは、以下の6点だと考察しています。

    • ①不動産大家業を行っていなかった被相続人が、94歳で突然一棟マンションを購入したこと
    • ②一棟マンション購入から相続発生までの時期が短いこと
    • ③相続発生後、申告期限までに相続人等が不動産を売却したこと
    • ④個人Aが三菱UFJ銀行から約10億円と、生前には返済できないことが分かっている金額を借り入れていること
    • ⑤三菱UFJ信託銀行に「相続税削減を目的とする稟議書」が国税の反面調査により判明していること
    • ⑥もともと金融資産が十分あったのに、不動産を購入した結果相続税額が0円となっていること

  • 4.相続対策(租税回避行為)として否認されないためには


    •   当社では、今回のような税務署からの否認を受けないためには、本件と逆の要件をきちんと備えることが重要とご案内しています。
      • ①収益用不動産を購入する際には、(平均寿命・平均余命を考慮して)早めに準備すること
      • ②相続発生後、相続人は、当面(数年間)の間売却せず、不動産を賃貸運用すること
      • ③相続税額が0円となるような無理な借入は行わないこと
      • ④金融機関に「節税対策を目的とする融資」などという稟議書ではないことを確認すること

  • 5.当社サービス

  •  当社では相続を視野に入れた不動産戦略として、資産の組替え、低利用不動産の有効利用、土地の賃貸可能性の検証、デベロッパー・建設業者との等価交換事業の可否などの検証を行うサービスをご提供しています。
     コンサルティングレポート、不動産鑑定評価(または価格調査)、不動産売買など、必要に応じてご提供しますが、費用がダブルでかかることはなく、例えばコンサルティングレポートを作成した後に不動産鑑定評価が必要になれば、コンサルティング費用は返還し、無償扱いとさせていただきます。また、その後に不動産売買仲介業務をご依頼頂けましたら、不動産鑑定評価は無償扱いとさせていただきます。
     相続を視野に入れた不動産戦略・不動産有効活用はぜひ当社(お問い合わせ | 西武不動産鑑定 株式会社または電話03-4500-6270)にご連絡ください。

以 上